脳動静脈奇形の治療
脳動静脈奇形(AVM)とは
脳動静脈奇形(AVM)とは、脳内で動脈と静脈が毛細血管を介さずに直接つながっている状態で、つながった部分には異常な“血管のかたまり(ナイダス)”が存在しています。
通常の脳循環では、動脈-毛細血管-静脈の順に血流が流れますが、AVMでは毛細血管が欠損しているために、流入動脈-ナイダス-導出静脈の順に血流が流れます。動脈の圧と血流が直接静脈に加わるため、ナイダスや静脈に負担がかかります。負担のかかったナイダスや静脈が破裂すると、クモ膜下出血や脳出血などを起こします。また、破裂しなくても、痙攣発作、頭痛、脳虚血発作などを引き起こすことがあります。
治療方針の決定
脳動静脈奇形の①大きさ、②周囲脳の機能的重要性、③導出静脈の流れ方を考慮し(Spetzler-Martin分類)、治療に伴うリスクを評価します。個々の症例における出血リスクと治療のリスクを短期的や長期的に検討して治療方針を決定します。
破裂したAVMの場合と、未破裂AVMの場合を分けて考える必要があります。
いったん出血したAVMが再度出血する確率は、最初の1年間は6-17.8%と高く、その後は年間2%程度と、未破裂AVMと同程度の破裂率になると考えられています。
再出血すれば更に患者さんの予後は悪くなるので、安全に治療が出来る可能性が高いなら積極的な治療を考慮するのが良いと考えます。
しかしAVMはその大きさや存在する部位により、治療により予測されるリスクが大きく異なるので、大きなAVMや深部に存在するAVMでは、保存的治療(血圧管理などの内科的治療)を行うほうが、患者さんに有益であると判断されることが少なくありません。
痙攣や頭痛の精査で診断された場合や、脳ドック等で偶然発見されたAVMが、未破裂AVMです。未破裂AVMの年間出血率は1.7-2.2%と報告されています。
出血例と比べて出血率は低いです。従って、慌てて治療を検討する必要はありません。AVMはその部位や大きさにより治療リスクが大きく異なります。
患者さんの年齢が比較的若く、AVMが脳表に存在し、重要な機能が存在する部位ではなく、サイズもそれほど大きくない場合、つまり安全に治療できる可能性が相当高いと予測される場合には、予防的治療を考慮するのが良いと考えます。
最近の海外の未破裂AVMの治療に関する研究(ARUBA研究)では、何らかの侵襲的治療と比較して, 内科的治療の優位性が示されました。
しかし長期の効果については未だ結論が出ていないのが現状です。
つまり、ARUBA研究は未破裂AVMの短期的予後についての評価に過ぎず、AVMの治療では生涯の出血リスクに対する根治を目指す必要があります。
治療方法
脳動静脈奇形の治療は
1. 開頭手術 2. 血管内手術 3. 定位放射線治療(ガンマナイフ)
があり、それらの単独、もしくは、それらを組み合わせて行います。
開頭してナイダスを外科的に摘出する治療法です。
出血を予防する効果が直ちに得られる利点があります。開頭摘出術を行う場合には、血管内手術(塞栓術)を組み合わせて行うことが一般的です。
開頭手術(AVM摘出術)は、SEP(体性感覚誘発電位)やMEP(運動誘発電位)などの種々の術中神経モニタリング下で行うことで安全性を高め、術中蛍光造影(ICG-ビデオアンギオグラフィー)を行うことで確実な手術を実践します。
- 開頭術でナイダスを摘出している術中所見です
細いマイクロカテーテルを脳動静脈奇形の流入動脈に誘導し、液体塞栓物質やコイル等を用いてナイダスや流入動脈を閉塞させることで、脳動静脈奇形の体積や血流を減らします。
外科的摘出術や放射線治療を行う場合の危険性を減らし、全体としてより効果的な治療を行うことが目標になります。
- 後大脳動脈から脳動静脈奇形が描出されています
- 液体塞栓物質を用いてナイダスの塞栓を行います
- 異常血管は塞栓され消失しています
主に脳深部に存在する小さなAVMに対して選択される治療法です。
手術を行わないという大きなメリットがありますが、ある程度の大きさになると定位放射線治療のみでは完全な治療効果(完全閉塞)が得られません。また完全閉塞するまでに時間がかかり、その間出血のリスクも続きます。