脳卒中センター
特色
当脳卒中センターは平成19年4月に開設され、平成22年からは本センターの急性期医療部門・高度救命救急センターの1部門となりました。また、日本脳卒中学会が令和2年より始めた一次脳卒中センター(Primarystroke center:PSC)コア施設の認定を維持しており、大阪府南部の脳卒中診療の中核として、専門性の高い包括的な脳卒中診療を府民の皆様に提供しています。
当センターは、脳神経内科、脳神経外科を中心に画像診断部、救急診療科、心臓内科、心臓血管外科、リハビリテーション科、耳鼻咽喉・頭頸部外科や看護部、患者総合支援センターなどの多部門が連携し、超急性期から回復期までシームレスな脳卒中診療を担い(図1, 2)、脳神経系の専門医が24時間常駐して脳卒中集中治療室(Stroke Care Unit:SCU12床)において緊急症例を受け入れ、専門的治療、看護、急性期リハビリテーションを行っています。
急性脳主幹動脈閉塞(Large vessel occlusion:LVO)症例では、共同偏視を伴って運動麻痺や失語、半側空間無視などの皮質症状を含んだ神経症状を突然発症することが特徴です。これらの突発症状の“発見・搬送”が4.5時間以内であれば、直ちに診断、適応を評価してrt-PA静注血栓溶解療法を開始するとともに、発症24時間以内でCT・MRI画像で認められる梗塞範囲が症状から推測される脳虚血範囲よりも小さい場合(Clinical-diffusion mismatch)には、脳神経血管内治療指導医1名、専門医7名のもと365日24時間体制で血栓回収療法を直ちに行い、1分でも早い閉塞血管の再開通により脳血流を回復させ神経機能改善につなげることを目指しています。それ以外の脳梗塞症例も、臨床病型・発症機序を迅速に鑑別し、その病態に適した治療を導入することで予後改善に努めています。
激しい頭痛や急激に悪化する神経症状を呈する脳出血・くも膜下出血に対しても、24時間緊急手術が可能です。特に脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血には、開頭手術によるクリッピング術と血管内治療によるコイル塞栓術を症例毎に適切に選択して実施しています。また脳出血症例に対する血腫除去術には、低侵襲の神経内視鏡手術を積極的に導入しています。
病態の安定後は脳神経専門病棟に移り、再発予防や各種リハビリを継続します。さらに自宅退院に向けたリハビリが必要な症例には、リハビリテーション科が運営する回復期リハ病棟に移り、リハビリを続けます。平行して病棟スタッフ・リハビリスタッフ・ソーシャルワーカーが、退院に向けての自宅環境整備や介護サービスの準備を支援します(図2)。大阪市の脳卒中地域医療ネットワークとも連携しており、地域の回復期リハビリテーション病院への紹介も可能です。また、令和4年患者総合支援センターに併設された脳卒中相談窓口では、退院後の不安/生活の困りごとへの対処法や利用可能な公的サービスを紹介する動画集(日本脳卒中学会/日本脳卒中協会作成、QRコード)を提供していますので、ご利用ください。
図1.組織図

図2.病診連携(前方連携・後方連携)について

主要疾患
脳梗塞(治療は超急性期血栓回収療法、rt-PA静注血栓溶解療法など)
一過性脳虚血発作(2日以内に脳梗塞を発症する可能性があり、直ちに診断・治療を開始することが重要です。)
脳出血(治療は開頭血腫除去術、内視鏡、定位脳手術など)
くも膜下出血(治療は脳動脈瘤クリッピング術・コイル塞栓術など)
主要検査
MRI、MRA、CT、CTA、脳血管造影、脳血流SPECT
頚動脈超音波検査、経頭蓋超音波検査(TCD、TCCFI)、経食道心エコー図
下肢静脈エコー検査、脳波検査
診療実績
令和6年1月から12月の診療成績を示します。令和5年とほぼ同数の364例の脳卒中急性期症例を入院で受け入れることができました。その内訳(図3)は脳梗塞228名、一過性脳虚血発作(TIA)14名、脳出血76名(開頭血腫除去術18例、神経内視鏡的血腫除去術8例)、くも膜下出血28名(クリッピング術7例、コイル塞栓術14例)、脳動静脈奇形4例、その他(硬膜動静脈瘻、椎骨動脈解離急性期、可逆性脳血管攣縮症候群など)14名で、脳梗塞、TIA(一過性脳虚血発作)を合わせた虚血性脳卒中が66%を占めています。発症後短時間で来院された脳梗塞症例では48例(21%)に急性期再開通療法(rtPA静注血栓溶解療法29例、血管内治療での血栓回収療法29例、両療法併用10例)を施行しております。今後もさらに多くの緊急治療を行い、地域の脳卒中診療の充実に貢献していきたいと考えています。
もし自宅で神経症状(片側の手足が動かない、言葉がうまく出ない、経験したことのない激しい頭痛など)が突然発症した場合は、急性期の脳卒中治療を1分でも早く受けていただくと、その後の回復率が高くなりますので、躊躇せずすぐに直接救急隊に連絡し、PSCコア施設である当センターに搬送してもらうことが重要です。脳卒中が疑われる症例は遠慮なくご連絡ください。100%の応需を目指しています。
当センターでは、脳血管障害の予防治療にも脳神経外科、脳神経内科で連携して取り組んでいます。平成6年には、頸動脈狭窄症例に対する内膜剥離術11例、ステント留置術16例、主幹動脈閉塞・狭窄症(頸動脈系閉塞例)に対するSTA-MCAバイパス術5例、未破裂脳動脈瘤に対するクリッピング術6例、コイル塞栓術6例を行いました。心原性塞栓源となる心房細動、卵円孔開存などには、心臓内科・外科とBrain-Heart teamを形成して適応を評価し、心房細動に対するablationや左心耳閉鎖術、卵円孔開存閉鎖術につなげています。これらの脳血管障害の予防治療についても病態把握を詳細に行い、内科治療、血管内治療、直達手術を適切に判断し施行しています。お困りの症例があれば、ぜひご紹介ください。
図3.脳卒中急性期受け入れ症例364名の内訳(令和6年1月-令和6年12月)

最新治療の紹介
突発した神経症状(片側の顔、上下肢の運動麻痺、言葉の異常、眼球の偏位など)が脳梗塞(脳血管が詰まって発症)の場合、rt-PA静注療法の適応が拡大され、従来の“発症”後4.5時間以内に加え、“発見”4.5時間以内(例えば起床時発見例)でも、 MRI-FLAIR画像で通常発症4.5時間以降で出現する高信号を認めない場合、rt-PAを投与できます。また、発症24時間以内でearly-CT signやMRI拡散強調画像(DWI)での高信号領域(梗塞完成が示唆される領域)がある程度広範囲でも、閉塞血管をカテーテルによる血栓回収療法で再開通させると、90日後の機能予後が改善する症例が多くなることが証明されています。当センターではこれらの脳梗塞急性期再開通療法を積極的に行っています。実際の症例を紹介いたします。症例は60代男性。特に既往はありません。 仕事中に右片麻痺、運動性失語、左共同偏視が出現し倒れているところを発見され、同僚が救急要請、最終健常確認から88分で当院に搬送されました。来院後10分のCTAで左中大脳動脈の閉塞を認め(図4)、来院後26分でrt-PA静注療法開始、38分で緊急カテーテルを開始し同様の閉塞所見を確認、ステントリトリーバーを用いた血栓回収を行い、来院後55分(最終健常確認から143分)で再開通が得られています(図5)。図6が回収された血栓と回収デバイスです。術後速やかに症状は改善し、梗塞巣はわずかで済みました(図7)。入院13日後に退院され、元の仕事に復職しておられます。
このように、“発見”から短時間(できるだけ早く)に搬送されれば、治療適応を迅速に判断し血流を再開することで、劇的な効果が得られる症例が多くあります。一刻も早く異変に気づき、24時間血管内治療が可能な当センターのようなPSCコア施設に搬送することが重要です。当センターでは脳神経血管内治療指導医1名、専門医6名の計7名が在籍し、いつでも治療できる体制を整えています。

図4 搬送直後のCTA

図5 閉塞していた左中脳動脈をステントリトリーバーで再通過させた


学会認定
日本脳卒中学会認定研修教育病院
日本脳神経外科学会専門医認定制度指定訓練施設
日本神経学会専門医教育施設
診療科からのお知らせ
当センターでは脳神経系専門医が24時間待機し、日中担当医、当直医は電話(ホットライン)を携帯しております。
当センターは地域の医院・診療所と連携を取りながら患者様のフォローを行っています。退院後はホームドクターと一緒に、高血圧・糖尿病などの基礎疾患治療や脳卒中再発予防治療を継続します。
リンク先
| リンク名称 | URL |
|---|---|
| 日本脳卒中学会 | http://www.jsts.gr.jp/ |
| 日本神経学会 | http://www.neurology-jp.org/ |
| 日本脳神経外科学会 | http://jns.umin.ac.jp |
| 日本脳神経血管内治療学会 | http://jsnet.website |
| 日本リハビリテーション医学会 | http://www.jarm.or.jp |