腹膜透析から血液透析そして献腎移植を経験して
2024年3月吉日 大塚義博
40歳代後半から糖尿病と診断され、58歳でついに腎臓が悲鳴を上げました。血液透析の準備をしていたのですが、主治医が転勤となり、当時林部長が担当医となりました。林部長は自己管理ができるなら腹膜透析の方が体に優しく、負担が少ないこと、4~5年頑張って血液透析に移行すればと言われ、私は腹膜透析に決めました。2013年3月3日腹膜透析を開始、この時日本臓器移植ネットワ-クに移植希望登録を申し込みました。腹膜透析は自由が利くので、60歳定年まで会社の中でバッグ交換をさせてもらい、無事定年まで勤めあげることができました。定年後は最後の家族旅行と思い、毎年1回は車のトランクに透析液を積んで、エクシブ鳥羽別邸、エクシブ京都八瀬離宮、淡路島、鳴門、有馬離宮、富士山が見たくて山中湖など、毎年最後の家族旅行と言いながら色々なところへ行きました。これも林先生に腹膜透析を勧められたお陰です。本当に感謝・感謝です。有難うございました。
そんな中ついにやってきました。2021年5月12日肺に水が溜まり、うっ血性心不全で入院、入院中にびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (がん)が発覚、抗がん剤治療3回セットで48日間入院し、退院後は放射線治療を15回も受けました。2022年2月4日には血液透析用内シャントを作成し、3月9日より近くの透析センタ-で週1回金曜日に血液透析を併用することとなりました。腹膜透析を始めてから9年と6日目の事でした。ハイブリッド透析ではさすがに旅行も行きにくくなり、腹膜透析をしながら金曜日の血液透析を迎え撃つ感覚で過ごす1週間になりました。私には4時間の血液透析が苦痛で、2リットルの水分を引くときは血圧が100を切り、生あくびが出てしんどくなります。1年が過ぎ2023年5月22日心臓の血管が詰まりかけて2日間入院、カテ-テル治療、ステント留置術を受けました。そんな病院通いの日々、次に襲ってきたのが徐脈、脈が遅く40しかありませんでした。精密検査で不整脈と診断され、2024年1月29日にペ-スメ-カ-を植え込む手術を受けました。本当にこの1~2年次から次へと体に異変が続き、先が思い悩まされ、精神的にもしんどくなってきました。
しかし予想もしない運命の日がやって来ました。2024年2月17日土曜日の18時45分泌尿器科から2回着信履歴があり、バイブにしていて気づきませんでした。折り返し掛けている間に着信があり、電話に出ると「脳死状態の方から腎臓の移植が出来ます。どうするか意思表示をして下さい」と言われ、突然で絶句!断れば2度とないし、「お願いします」と返事をしました。「明日13時救急外来に来てください。検査後入院です」と。2024年2月20日火曜日12時30分手術開始、19時20分手術終了。泌尿器科主治医の川村先生から「無事手術は成功しました」と妻に連絡がありました。
腹膜透析11年11カ月、週1回の血液透析併用1年11カ月間、その間シャント血管拡張術6回、長きにわたる透析生活が終わりました。お腹のカテ-テルも手術と同時に抜去しました。
大阪急性期・総合医療センタ-林副院長、移植コ-ディネ-タ-豊田さん、川村医師、看護師他皆さん本当に有難うございました。頂いた腎臓を大切に守っていきます。

写真右から泌尿器科川村先生(主治医)、豊田看護師(認定レシピエント移植コーディネーター)、大塚さん、そして私。
腎代替療法の選択は人生に大きな影響を及ぼします
2024年3月吉日
大阪急性期・総合医療センタ- 副院長兼医務局長 林 晃正
私は腎臓・透析専門医として35年間、非常に多くの患者さんに出会いました。新たに腎代替療法を始められる患者さんは3500人以上、その中で腹膜透析を選択されたおおよそ300人の患者さんに関わってきました。しかし、大塚義博さんのように、腹膜透析、血液透析そして献腎移植を経験された患者さんは初めてでした。そこで、同じ腎臓病で苦しんでいる患者さんのために、大塚さんのこれまでの貴重なご経験をぜひ伝えてほしいと思い、手記をお願いしましたところ、快くお引き受けいただきました。
近年、新薬を含めた治療法の進歩により、以前であれば末期腎不全から透析導入となっていたような患者さんの腎臓の機能を温存し、透析導入を阻止することが可能となっています。ただし、残念ながらすべての腎臓病の患者さんの透析導入を阻止することはできません。年間約4万人の患者さんが新たに透析療法を始めておられるのが現実です。
しかし、末期腎不全の治療法は透析療法だけでなく腎移植もあります。また透析療法は大きく分けて血液透析と腹膜透析があります。これら3つの治療法を合わせて腎代替療法と呼んでいます。腎代替療法の選択はその後の人生にも大きな影響を及ぼします。腎代替療法を治療と考えるのではなく、生活の一部として受け入れていただくことで、選択の考え方が変わると思います。当センタ-では末期腎不全の患者さんならびにご家族に対して腎代替療法選択外来・SDM外来・腹膜透析準備外来そして腎移植相談外来を設けており、患者さんやご家族に時間をかけて腎代替療法を選択いただけるよう配慮しています。詳しくは当科ホ-ムペ-ジの「腎代替療法の選択とSDM」「腎代替療法の種類」をご覧ください。大塚さんの体験が腎臓病と戦っている患者さんに少しでも参考になればと思いますし、また勇気づけとなること願って止みません。
最後になりますが、今回貴重な体験を手記にしていただきました、大塚義博さんに改めて感謝を申し上げたいと思います。本当に有難うございました。