腎代替療法について

腎代替療法の種類-血液透析・腹膜透析・腎移植について-

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CKDステージ5では、食事制限と栄養管理、血圧コントロール、貧血管理、骨ミネラル代謝管理などを重点的に行いますが、さらに進行すると老廃物や塩分・水分が体にたまって、命に係わる状態に陥ります (“尿毒症”と言います)。そのため、腎臓の代わりをしてくれる治療、すなわち腎代替療法が必要となります。腎代替療法には、血液透析、腹膜透析、腎移植があります。

1. 血液透析

血液透析は、図1Aのように血液透析器 (ダイアライザと言います)と透析液を使って体内にたまった老廃物 (尿毒素)と余分な水分を血液から取り出す透析方法です。ダイアライザの中は非常に細いストロ-のような管 (中空糸ファイバ-)が1~2万本束ねてあり、その中を血液が通過し、中空糸ファイバ-の隙間を透析液が逆方向から流れます。実は中空糸ファイバ-の壁には小さな孔があいており、その孔を通って老廃物が透析液の方へ流れていきます。余分な水分は中空糸ファイバ-の中 (血液側)と外 (透析液側)の圧を調整することで透析液側に引きだされます (除水)。時間当たりどれだけ除水するかは、この圧を変えることで調整できます。一般に”透析”と言えばこの血液透析のことを指します。血液透析で除去できるのは、中空糸ファイバ-の小さな穴を通ることができる老廃物 (クレアチニンや尿素窒素)やカリウムなどです。血液透析で使用する透析液は、水道水を特別に処理して非常にきれいにした水を使用します。この透析液は1分間に500mLのぺ-スで流れるため (4時間で約120L)、血液側の老廃物を効率よく除去できます。血液透析は、週3回 (月・水・金あるいは火・木・土)、1回4時間程度行います。

図1A. 血液透析の方法
図1A. 血液透析の方法

より大きな老廃物を除去するための透析の方法として血液濾過があります。血液濾過では、ダイアライザの中空糸ファイバ-の孔を大きくしたヘモフィルタという血液濾過器を使用します。図1Bのように、血液から大量の水分を老廃物やカリウムごと除去し、大量の置換液 (健康な人の血液中の水分の組成に近い液)を補う方法です。血液透析に比べて大きな老廃物をよりたくさん除去できますが、小さな老廃物の除去は血液透析に劣ります。また、中空糸ファイバ-の孔が大きいため、老廃物だけでなく体に必要なたんぱく質も少し抜けてしまいます。血液透析も血液濾過も中空糸ファイバ-の孔の大きさで篩にかけて除去しているため、孔が大きくなると、どうしても体に必要な成分も除去されてしまいます。

図1B. 血液濾過の方法
図1B. 血液濾過の方法

血液透析と血液濾過を組み合わせた血液濾過透析は、血液透析の利点 (小さな老廃物を効率よく除去できる)と血液濾過の利点 (おおきな老廃物を除去できる)を兼ね備えた透析方法であり、最近では図1Cにように透析液をそのまま置換液として使用するオンライン血液濾過透析という透析方法が主流となっています。2012年にオンライン血液濾過透析が保険診療としてすべての維持透析患者さんに実施可能となったことを受け、現在わが国で維持透析を受けておられる約35万人のうち約4割の患者さんは、このオンライン血液濾過透析という治療を受けています。透析液を置換液として使用するオンライン血液濾過透析は、透析液を輸液のレベルまできれいにできる技術のおかげで実現可能となった透析方法です。血液濾過透析では、かゆみやいらいらを引き起こす比較的大きな尿毒素を除去できますので、そのような症状のある患者さんには効果的です。ただし、血液濾過のところでも触れたように、体に必要な成分も除去されるため、栄養状態のあまりよくない患者さんに実施する際には注意が必要です。

図1C. 血液濾過透析の方法
図1C. 血液濾過透析の方法

また、最近では間歇補充型血液濾過透析といって、一定時間毎 (例: 20~30分毎)にヘモダイアフィルタの孔から透析液を血液側に注入する透析方法も試行されています。注入した透析液の量は最終的には除水量に加えられますので、ドライウェイトは維持されます。この方法は一定時間毎に輸液をするのと同じ効果があり、透析中の血圧が安定しやすくなります。

血液透析や血液濾過あるいは血液濾過透析を行うためには、バスキュラーアクセスが必要であり、内シャント、動脈表在化、人工血管、透析用カテーテルなどの種類があります。内シャントが最も一般的なもので、手首付近でご自身の静脈と動脈をつなぐ手術になります(手術時間は1時間程度) (図2)。内シャント作成のためにはある程度の太さの血管が必要ですので、血管が細い患者さんの場合、動脈表在化や人工血管を使った手術が必要となりますことがあります。また、緊急時、もしくは内シャント作成が間に合わない場合、首や足の付け根の太い静脈に透析用カテーテルを入れることもあります。

図2. 内シャント (脱血用と返血用の針を穿刺して透析中)
図2. 内シャント (脱血用と返血用の針を穿刺して透析中)

2. 腹膜透析

腹膜透析は図3のように、あらかじめ腹腔内にカテ-テルを留置しておき (局所麻酔で1時間~1時間半の手術)、1.5~2リットルの透析液をカテ-テルを通して腹腔内に注入、数時間貯留後排液をするというサイクル (一般的にバッグ交換と言います)を、一日2~4回繰り返し行う透析方法です。腹膜 (小さな孔があります)とは腸管などを覆っている膜で、この腹膜を介して、老廃物、余分な水分を取り除くことができます。バッグ交換回数は、尿量や検査デ-タに応じて調整します。腹膜透析には、患者さん自身が自分で透析液を交換するCAPDと、専用装置が自動的に透析液を交換するAPDがあります。APDの場合、夜間眠っている間に専用の装置が自動的にバッグ交換することができ、昼間のバッグ交換回数を減らすことができます。

透析液を数時間貯留している間に腹膜を通して余分な水分や老廃物が透析液側にゆっくり移動してくるため、体への負担は血液透析に比べると少ないのですが、血液透析に比べて効率が悪いため、基本的には毎日施行する必要があります。腹膜透析は患者さんご自身あるいはご家族に手伝ってもらって自宅で実施する透析ですので、週3回医療機関に通院を要する血液透析や血液濾過透析と異なり、通院は1~2回/月で済み、社会復帰に適しています。また、腹膜透析ではカリウムの除去が優れているので、カリウム制限は原則不要となります。

図3. 腹膜透析の方法
図3. 腹膜透析の方法

カテーテルが皮膚から出てくる部分を出口部と言います (図4)。腹膜透析でもっとも重要なのがこの出口部管理です。カテ-テルは体にとってあくまでも異物ですので、この部分の傷の治りが遅れることが多く、皮膚に存在する菌に感染することもありますので、患者さん自身で出口部の観察と洗浄・消毒を毎日行う必要があります。

図4. 腹膜透析用カテ-テルと理想的な出口部 図4. 腹膜透析用カテ-テルと理想的な出口部
図4. 腹膜透析用カテ-テルと理想的な出口部

2022年末の時点でわが国において慢性透析療法を受けておられる患者さんの数は約35万人ですが、そのうち腹膜透析をされている患者さんの割合はわずか3%程度です。実は大阪府下においても腹膜透析の経験が豊富な施設は非常に限られており、腹膜透析を導入できる施設も少ない状況にあります。腹膜透析は効率が悪く毎日2~4回のバッグ交換を必要とするため、患者さんあるいはそのご家族の負担にはなりますが、血圧低下がなく、週3回4時間しか行わない血液透析と違って体調の変動もほとんどないため、子供や高齢者、体格の比較的小さな患者さんには最適の腎代替療法と言えます。また、通院も月1回程度で済むため、通院負担も軽減されます。

当科では腎代替療法選択外来さらにはSDM外来において、患者さんならびにそのご家族に最も適しているであろう腎代替療法の選択をサポ-トしております (詳しくは「腎代替療法の選択とSDM (shared decision making)-患者さんならびにそのご家族とともに考える療法選択-」を参照して下さい)。腹膜透析に興味のある患者さんに対しては、さらに腹膜透析準備外来において、実際のバッグ交換手技を含めた腹膜透析の実際について模擬体験できるよう専門看護師からの説明を受けることもできます。

自分のライフスタイルや趣味を継続する上で最も適した腎代替療法を選択してください。
腎代替療法の選択は、その後の人生に大きな影響を与えますので、単に治療の一つとしてではなく、生活の一部として捉えるようにしましょう。
読売新聞
腎臓・高血圧内科の取り組みが、読売新聞に2015年2月8日、15日、22日の3回にわたってシリ-ズで掲載されました。

3. 腎移植

腎移植は、腎臓を提供する方 (ドナー)と腎臓をもらう方 (レシピエント)の間で行われる医療です。腎移植には健康な方から腎臓の提供を受ける「生体腎移植」と、亡くなった方から腎臓の提供を受ける「献腎移植」の2種類があります。生体腎移植には、親子、兄弟姉妹、祖父母などから提供を受ける「血縁者間腎移植」と、配偶者などから提供を受ける「非血縁者間腎移植」があります。献腎移植には、脳死と判定されたドナーから腎臓を移植する「脳死腎移植」と、心停止後の腎臓を移植する「心停止下腎移植」があります。腎移植は年間約2,000例前後実施されています。腎移植の約9割は生体腎移植で、多くは親子間、兄弟間の提供ですが、近年は夫婦間での腎移植が増えています。免疫抑制療法の進歩により、ABO血液型が全く異なっていても問題なく腎移植ができるようになりました。献腎移植の場合20歳以上で移植を受けた患者さんの登録から移植までの平均待機期間は約16年です。腎臓は本来、腰のあたりにありますが、腎移植の際には下腹部 (骨盤の中)に移植します。通常、手術時間は約4時間です。

基本となるドナーの適応基準として、年齢は20歳以上70歳以下、血圧140/90mmHg未満、肥満がないこと、GFR80以上、蛋白尿150mg/day未満、糖尿病がなくHbA1c (NGSP) 6.2%以下などが必要とされています。先ほどの基準では、ドナーの数が限られるため、やや基準を緩くしたいわゆるマージナルドナー基準があります。年齢は80歳以下、血圧は降圧薬使用で130/80mmHg以下、軽度の肥満、GFR70以上、アルブミン尿が30mg/gCr未満、糖尿病であっても経口薬使用でHbA1c 6.5%以下 (インスリン使用例は適応外)などです。ドナーの手術は大きく皮膚を切る開放手術と傷の小さな腹腔鏡手術がありますが、本邦では負担の少ない腹腔鏡手術が普及しています。術後1週間程度で退院して、退院後は術前と同じ生活ができます。ドナーの方の腎臓も1つになるので、年に一度は定期的な検査が必要です。

腎移植は慢性腎不全に対する唯一の根本的治療法ですが、ドナ-の腎機能や拒絶反応さらには免疫抑制薬の影響により、腎機能が正常に戻ることは期待できません。生涯免疫抑制剤を服用しなければなりませんが、腎機能が安定すれば、血液透析や腹膜透析と比べて時間的な制約や身体的な拘束がなく、生活の質=QOLを維持できる治療法であることが特徴です。

3つの治療には、それぞれ、特徴、メリット、デメリットがありますので、主治医や医療スタッフ、ご家族と相談の上、ご自分に合った腎代替療法を選択して下さい。どの腎代替療法が優れているかという視点ではなく、患者さんの価値観やライフスタイルにあった腎代替療法を選ぶことで、人生の質が向上します。血液透析、腹膜透析、腎移植の特徴を比較した表を示します。

表.血液透析・腹膜透析・腎移植の比較

腹膜透析 血液透析 腎移植
施行者 患者自身・家族・訪問看護師 病院スタッフ
アクセス 腹膜透析用カテーテル ブラッドアクセス
手術時間・麻酔 1時間前後
全身・腰椎・局所麻酔
1時間前後
局所麻酔
4時間前後
全身麻酔
手技にかける時間 バッグ交換に1時間×1日4回(例) 3〜4時間/透析
回数 毎日 週3回
通院 1〜2回/月 3回/週 1回/月
継続可能期間 5〜8年前後が目安 特に期間はない 15〜20年が目安
睡眠中の治療 APDで可能 可能(ごく限られた施設)
仕事 ほとんど普通に可能 制限あり ほとんど普通に可能
入浴 出口部をカバーすれば毎日可能 透析日は入浴不可
食事 カリウム制限なし カリウム制限あり 塩分以外ほとんど制限なし
感染 出口部感染・腹膜炎 シャント感染・院内感染 日和見感染(免疫抑制剤使用による)
その他 液漏れやヘルニアなど腹膜透析関連合併症、
被嚢性腹膜硬化症
除水に伴う血圧低下
内シャント不全
悪性腫瘍(免疫抑制剤使用による)
  • ✴ 自動腹膜還流装置、腹膜透析関連合
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