当科は昭和48年に全国に先駆けて腎疾患専門診療科を標榜して以来、腎臓病に対する先進的・専門的治療を実践してまいりました。またその成果を国内外の学会や論文を通して発表し、各種診療ガイドライン作成にも関わってきました。
現在、全国で透析療法を受けておられる患者さんは約35万人と増加の一途であり、毎年4万人前後の患者さんが新たに透析を始めておられます。患者さんの腎臓を守ることが当科の使命であり、「腎臓病に対する正しい理解」と「個別化治療」によりこの状況を変えることができると確信しております。「エビデンスに基づいた治療」という言葉をよく見聞きしますが、エビデンスとは「論文という形で発表された治療成績」という意味であり、治療の標準化には適していますが、「個別化治療」を必要とする病気には必ずしも適しているとは言えません。腎臓病は同じ診断名であっても、その進行速度は病気の活動性や年齢さらには合併症の状況によって大きく異なっているため、患者さんの全体像をみて治療方針を決定する能力が求められます。当科は腎疾患専門診療科として全国有数の患者数を有するのみならず、これまで患者さんにご協力をいただき、多くの臨床研究や新薬の治験を実施してまいりました。これら多くの臨床経験と臨床研究の蓄積こそが、この「個別化治療」を可能にすると考えております。
また、当科の診療目標は「腎疾患のト-タルケアの実践」であり、腎疾患の診断・治療、進行抑制、透析導入阻止・遅延、患者さんに合った腎代替療法 (血液透析・腹膜透析・腎移植)の選択、透析合併症への対応などあらゆる場面で最高・最良の治療を提供することができるよう、日々臨床と研究に取り組んでおります。「個別化治療」や「腎疾患のト-タルケア」を実践するために、2011年以降「慢性腎臓病対策外来」・「腎代替療法選択外来」・「腹膜透析準備外来」など、新しい外来を開設してまいりました。2023年6月には「SDM (shared decision making)外来:医療者側は患者さんやそのご家族に治療法や代替法を説明し、患者側は自分の好みや価値観・信念に最も合った治療法を選べるよう支援するもの」を新たに開設し、患者さんやそのご家族に合った腎代替療法が選択できるようサポ-トをしております。「腎臓病で悩んでいる患者さんのために」一人ひとりのスタッフが考え行動し、少しでも多くの患者さんとその腎臓を救いたいと考えております。
令和7年4月1日
副院長兼医務局長
林 晃正