慢性腎臓病 (CKD)について

透析導入阻止を目指した
慢性腎臓病の管理

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わが国の成人8人に1人が慢性腎臓病 (chronic kidney disease: CKD)と診断され、そのうち毎年おおよそ4万人が末期腎不全に陥り、透析療法が開始されています。CKDの進行は、単に腎機能の喪失のみならず、心不全や脳卒中などの心血管疾患 (cardiovascular disease: CVD)発症リスクの増加に繋がります。また、透析療法にかかる医療費は国民総医療費のおおよそ3.5%をしめており、CKDの進行を抑え、透析導入を阻止することが、我々腎臓専門医に課せられた最重要ミッションです。そのためには、CKDに対する腎臓専門医による早期かつ適切な介入が必要となりますので、今回は介入のポイントについて解説したいと思います。

1. 慢性透析療法の現況

2022年末において、わが国で透析療法を受けておられる患者さんの数はおおよそ35万人で、図1に示すように、これまで増加傾向にあったものが一転減少しました1) (新型コロナウイルスの影響が大きいと思われます)。
新たに透析を始められる患者さんの腎不全の原因の第一位は糖尿病性腎症ですが (38.7%)、ここ数年は横ばいからやや減少傾向にあり、腎硬化症が18.7%、慢性糸球体腎炎が14.0%と続いています。腎硬化症は2019年に慢性糸球体腎炎に代わって第2位となって以降も増加傾向が続いています (図2)1)

図1.わが国の慢性透析患者数の推移
図1. わが国の慢性透析患者数の推移
日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)
(文献1より引用改変)
図2.透析導入主要原疾患の推移
図2. 透析導入主要原疾患の推移
日本透析医学会 わが国の慢性透析療法の現況(2022年12月31日現在)
(文献1より引用改変)

2022年に新たに透析を始められた患者さんの平均年齢は71.4歳 (男性70.8歳、女性72.9歳)であり、高齢化が進んでいます。また、最も導入頻度が高い年齢層は、男性が70~74歳、女性は80~84歳であり、人生の最終段階で透析療法が開始されていることになります。言い換えれば、もう少しだけ腎臓を長持ちさせていれば、透析を受けることなく人生を終えることができたはずの患者さんが非常に多いということであり、本当に残念な現状があります。

2. 慢性腎臓病 (CKD)に対する早期介入ならびに腎生検の重要性

CKDは自覚症状に乏しいのですが、検尿や血液検査によりある程度早期発見が可能であることから (図3)、健康診断や地域医療機関との連携によりCKDを早期に診断し、適切な治療を行うことで、CKDの重症化を予防し、CVD発症を抑制することが可能となります。

慢性腎臓病(chronic kidney disease: CKD)の定義

腎臓の形態や組織の異常あるいは検尿異常など腎疾患の存在が明らかである、または
糸球体濾過量 (GFR) < 60mL/分が3ヶ月間持続した状態
糸球体濾過量 (GFR) は簡単に言えば腎機能をパーセントで表したもの

eGFR(mL/分/1.73m2)=194×年齢-0.287×血清クレアチニン-1.094
女性:×0.739

年齢と血液検査におけるクレアチニン値から糸球体濾過量を計算することが可能。
GFRの前についているeは推定するという英単語estimateの頭文字。
/1.73m2は標準的体格で補正した数値であるという意味。

  • 図3. 慢性腎臓病 (CKD)の定義と推算糸球体濾過量 (eGFR)

CKDの進行を阻止する最も有効な方法は、CKDの原疾患 (慢性糸球体腎炎や糖尿病性腎臓病など)に対する治療であることは言うまでもないことであり、近年の治療法の進歩や新薬の登場により、原疾患によっては治癒や寛解も期待できます。例えばIgA腎症であれば扁桃腺を摘出し、その後1年間ステロイド治療をすることで、約半数の患者さんの検尿が正常化します (図4)2)。なお新薬の紹介については「腎疾患に対する話題の新薬」をご覧ください。

図4. IgA腎症に対する扁桃腺摘出+ステロイド治療の効果 (文献2より引用)
図4. IgA腎症に対する扁桃腺摘出+ステロイド治療の効果 (文献2より引用)

原疾患に対する治療を考える上でもっとも重要なことは、原疾患の活動性を正しく評価することです。原疾患の活動性については、まず蛋白尿の程度により評価します。尿蛋白量は原疾患の活動性や腎臓の組織障害の程度を反映し、特に尿蛋白/尿クレアチニン比0.5以上で尿潜血を伴っている場合、原疾患の活動性が高いと判断されますので、早急な腎生検による確定診断と活動性に応じた治療が必要となります。腎生検の方法については「腎生検について」をご覧ください。

なお、図4でも明らかなように、腎機能が低下してしまうと同じ治療であっても効果が十分期待できなくなります。また、腎機能の低下に伴い腎臓が萎縮し、腎生検時の合併症の危険性が増しますので、腎生検の実施自体困難になります。ですので、少なくともCr1.5mg/dLあるいはeGFR45mL/分/1.73m2までに腎臓専門医を受診する必要があります。

3. 腎機能低下がある程度進行してしまった場合の治療

原疾患の活動性が抑制できなければ、糸球体 (一つの腎臓に約100万個存在する血液の濾過装置: 「腎臓の構造と働き」を参照して下さい) が壊れていきますが (医学用語で“硬化”と言います) (図5)、糸球体がある程度硬化しても、残された糸球体が濾過圧を上げてより多くの老廃物を濾過しようと代償 (糸球体過剰濾過)することにより、しばらく腎機能は保たれます。しかし、濾過圧の上昇が続けば、それだけで糸球体は硬化してしまいます3)。糸球体の数がある程度減少してくると、ついには代償できなくなり、濾過機能 (腎機能)が低下していきます。半数以上の糸球体が破壊されて初めてeGFRが低下し始め、CKDステージG3 (eGFR30~60mL/分/1.73m2)まで進行した段階で初めて血清クレアチニンが上昇してきます (図6)。

正常糸球体
正常糸球体
IgA腎症 (半月体形成)
IgA腎症 (半月体形成)
糖尿病性腎症
糖尿病性腎症
硬化糸球体
硬化糸球体

図5: 各種疾患による糸球体の変化

CKDがある程度進行しても、ステージG3 (図6のpoint of no remission)までであれば、その進行をほとんど止まった状態にすることも可能です (寛解導入と言います)。寛解導入のためには、尿蛋白を限りなく陰性化させること、そのためには降圧薬であるレニン・アンジオテンシン・アルドステロン系阻害薬 (RAAS阻害薬)の適正な使用と厳重な血圧管理、さらには低蛋白食による糸球体過剰濾過の是正が重要な治療戦略となります。

図6. CKDに対する介入のタイミングとその効果 (著者作成)
図6. CKDに対する介入のタイミングとその効果 (著者作成)

もちろん、以下に示すCKDステージ進行に伴う様々な病態への適切な専門的介入が不可欠であることは言うまでもありません。

CKDステージG3では、血清クレアチニンの上昇に加えて、血圧上昇、浮腫、軽度の貧血が見られます。ミネラル異常や代謝性アシドーシス (本来弱アルカリ性である体内が酸性に傾くこと)はあっても軽度であり、食事療法が遵守されていれば、ほとんど問題にはなりません。しかし、CKDステージG4 (eGFR15~30mL/分/1.73m2) ~G5 (eGFR<15mL/分/1.73m2)になると、血圧上昇、浮腫、貧血はより顕著となり、代謝性アシドーシス、高尿酸血症、カリウムの上昇・カルシウムの低下・リンの上昇などのミネラル異常、iPTH (副甲状腺ホルモン)の上昇などが見られるようになります。以下、CKD進行に伴って出現する主要病態とその対策について解説します。

3-1. 低蛋白食

過剰な蛋白質摂取は糸球体過剰濾過を助長し、糸球体硬化を早めます。また、腎機能低下時には、蛋白質の分解産物が尿毒症物質として蓄積し、尿毒症症状も出やすくなります。これまでに実施された、蛋白制限による腎保護効果を検証した多くの臨床試験の結果を踏まえ、「慢性腎臓病に対する食事療法基準2014年版 (日本腎臓学会編)」において、CKDステ-ジ別の蛋白質摂取量の基準(ステ-ジ G3a: 0.8~1.0 g/kg標準体重/日、G3b以降: 0.6~0.8 g/kg標準体重/日)が示されていますが4)、「エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023」では、CKD進行抑制のための蛋白制限を推奨するものの、具体的数値目標については患者さん個々に判断すべきであるとしています5)。例えば、糸球体過剰濾過を呈していない患者さんや尿蛋白が少ない患者さんでは、蛋白制限による腎保護効果はあまり期待できません。また、高齢者では栄養障害からサルコペニア・フレイルに陥る危険性もあります。ですので、患者さん個々において蛋白制限の適応を慎重に判断し、低蛋白食導入後も24時間蓄尿検査を含め栄養状態をモニタ-する必要があります。

蛋白制限と24時間蓄尿の勧め

腎機能の保護のために蛋白制限は非常に有効です。当科では標準体重1kgあたり0.7g〜1.0gの蛋白制限を、患者さんの腎機能や尿蛋白量さらには年齢や栄養状態に合わせて指導します。
また、必ず24時間蓄尿をしていただき、蛋白摂取量を推定して、過度の制限になっていないかモニターしています。(24時間蓄尿をしない蛋白制限は効果も疑わしく、逆に非常に危険でもあります。)

蛋白制限の具体例
65歳 男性の場合
身長 165cm体重 70kgCr 2.0mg/dLeGFR27mL/分/1.73m2尿蛋白1.0g/日
標準体重は1.65×1.65×22=60kgとなり、標準体重1kgあたりの蛋白制限が0.7gの場合、一日に許容される蛋白摂取量は0.7×60=42gとなります。

図7. 蛋白制限と24時間蓄尿検査の勧め (著者作成)

3-2. 降圧療法

CKD患者さんに対する降圧療法の目的は、腎機能低下を抑制し、CVDの発症を予防することにあり、糖尿病を合併するCKD患者さんに対する降圧目標は130/80mmHg未満、糖尿病非合併CKD患者さんで尿蛋白が少ない場合は140/90mmHg、尿蛋白の多い患者さんでは積極的に130/80mmHgを目標とすることが推奨されています5)。また、降圧薬については、特にRAAS阻害薬が推奨されていますが、高齢で動脈硬化の程度が強く、尿蛋白が少ない患者さんでは、必ずしも糸球体過剰濾過を呈しておらず、RAAS阻害薬により糸球体濾過圧が過剰に低下し、腎機能がむしろ増悪することをよく経験するため (図8)、腎庇護的カルシウム拮抗薬も第一選択となります。いずれにしても、家庭血圧測定を指導し、過剰降圧のないよう注意する必要があります。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬 (ともにRAAS阻害薬)との併用については、日本高血圧学会ガイドライン2019では推奨されていませんが6)、腎臓専門医の間では、腎機能増悪や高カリウム血症に注意しながら、さらなる尿蛋白減少目的に頻用されています。また抗アルドステロン薬も、単独あるいは他のRAAS阻害薬との併用で、尿蛋白減少ならびに腎保護のため使用されます。

図8. CKD患者さんへのRAAS阻害薬使用時の注意点 (著者作成)
図8. CKD患者さんへのRAAS阻害薬使用時の注意点 (著者作成)

3-3. SGLT-2阻害薬

糖尿病治療薬であるSGLT-2阻害薬は、尿細管 (「腎臓の構造」参照)でのブドウ糖の再吸収を抑えて尿中に排泄させ、血糖を下げるお薬です。ブドウ糖の再吸収を抑えると同時にナトリウム (塩分)の再吸収を抑えることから、結果として輸入細動脈が収縮し、糸球体内圧を低下させることにより腎保護作用を発揮すると考えられています。その他の機序として、貧血改善、抗炎症作用などが考えられています7)。EMPA-REG OUTCOME試験8)を含め複数の大規模臨床試験において、糖尿病合併ならびに非合併CKD患者さんにおいて、CVD発症抑制のみならず腎保護作用が証明され、2020年に発表されたDAPA-CKD試験における腎イベント抑制効果は44%と報告されています9)(図9)。わが国においても2021年8月ダパグリフロジンが糖尿病合併の有無を問わずCKDに対する腎保護薬として認可され、急速にその使用が広がっています。

なお、SGLT-2阻害薬はブドウ糖を尿中に排泄するため尿路感染症にかかりやすいこと、さらには塩分排泄と同時に水分も排泄されるため、高齢者では脱水に注意が必要です。

図9. SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジンの腎保護効果を証明した臨床試験 (文献10より引用・作図)
図9. SGLT-2阻害薬であるダパグリフロジンの腎保護効果を証明した臨床試験
(文献10より引用・作図)

3-4. 代謝性アシドーシス (体の酸性化)の是正

中学校の理科の授業で水溶液の酸性・中性・アルカリ性について学んだ記憶があると思いますが、もともと我々の体の約60%は水分 (正確にはうすい塩水)でできており、その水分は弱アルカリ性に保たれているため、細胞も元気で活動できています。腎機能低下に伴う腎臓からの酸排泄低下により、代謝性アシドーシスが進行します。代謝性アシドーシスでは、血清カリウムも上昇しやすく、蛋白質 (主に筋肉)が壊れたり、貧血が悪化したり、骨がもろくなったりするため、適宜炭酸水素ナトリウム (いわゆる“重曹”このとです)の投与が必要となります。

重曹投与については、エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023では、CKDステージG4から血液検査に静脈血ガス分析を加え、血清重炭酸濃度22 mmol/Lを下回れば重曹を投与することを提案しています5)。2019年に発表された14の介入試験をまとめた研究 (対象患者数1394名)においても、血清重炭酸濃度低値 (<24mEq/L)を呈するCKDステ-ジG3~G5の患者さんに対するアルカリ化剤 (重曹あるいはクエン酸ナトリウム)の投与あるいは酸制限食 (主として蛋白制限食)は、腎機能低下ならびに末期腎不全への進行を有意に抑制することが明らかになっています10)。また、CKDステ-ジG3~G5 (平均eGFR35.1mL/分/1.73m2)の患者さん740名を対象とした、重曹投与による腎保護効果について検証した介入試験 (UBI研究)においても (平均29.9カ月観察)、目標とする血清重炭酸濃度を24~28mmol/Lとすることで、有意に腎機能低下が抑制されることが示されています11)

3-5. 骨ミネラル代謝異常の是正

CKDステージG3~4では、腎臓からリンを排泄するため、骨から繊維芽細胞増殖因子 (fibroblast growth factor 23: FGF23)が分泌され、尿細管 (「腎臓の構造」参照)に働いて尿中にリンを排泄しようとします。さらに、FGF23は腎臓でのビタミンD活性化を妨げることで、腸管からのカルシウム吸収が低下し、血清カルシウムが低下します (図10)。その結果、副甲状腺ホルモン (parathyroid hormone: PTH)が過剰に分泌され、骨吸収 (骨がとけること)により血清カルシウムの低下を防ごうとします。このような状態を以前は腎性骨異栄養症と呼んでいました。

CKDステージG5ではさらなる糸球体濾過低下により、リン排泄が困難となり、高リン血症が顕性化します。高リン血症は血管石灰化を促進させ、生命予後を悪化させることから、2006年にはCKDに伴うカルシウム・リンの異常 (ミネラル異常)と、骨代謝異常ならびに血管石灰化を含めた病態はCKD骨ミネラル代謝異常 (Mineral and Bone Disorder: CKD-MBD)と呼ばれるようになりました12)

図10. 腎機能低下に伴う骨ミネラル代謝異常 (著者作成、イラストは中外製薬イラスト集より引用)
図10. 腎機能低下に伴う骨ミネラル代謝異常
(著者作成、イラストは中外製薬イラスト集より引用)

3-6. 腎性貧血に対する治療

赤血球・白血球・血小板は骨の芯にあたる部分の骨髄で作られます。また、赤血球は腎臓から分泌されるエリスロポエチン (erythropoietin: EPO)というホルモンによってその産生が刺激されます (図11)。腎臓の働きが低下すると、EPOの分泌が不十分となり、貧血が出現します。これを腎性貧血と呼びます。eGFR30mL/分/1.73m2まで低下すると、程度の差はありますが、CKD患者さんのほとんどが貧血を呈するようになります。

図11.赤血球が作られるしくみ (著者作成、イラストは中外製薬イラスト集より引用)
図11.赤血球が作られるしくみ
(著者作成、イラストは中外製薬イラスト集より引用)

この腎性貧血の特効薬として1990年に遺伝子組み換えヒトエリスロポエチン製剤が透析患者さんに対して使用可能となり、1994年には透析導入前保存期CKD患者さんへの使用も認められました。その後少し改良を加えて作用時間を長くした製剤 (ダルベポエチンアルファやエポエチンベータペゴルなど)も開発され、これらはまとめて赤血球造血刺激因子製剤 (erythropoiesis stimulating agents: ESA)と呼ばれています。ESAの登場以前は輸血に頼っていたため、C型肝炎ウイルス感染も多く、また輸血も最低限のヘモグロビン値を維持するための手段でしたので、透析患者さんのヘモグロビン値は7g/dL前後と非常に低い値であり、心不全により亡くなられる患者さんも多かったのですが、ESAの使用が始まった1990年代以降透析患者さんの心不全による死亡は大幅に減少しました (図12)。

ESA治療の際の目標ヘモグロビン値についてはこの30年間多くの臨床試験が行われ13-17)、ヘモグロビンの正常化はCVDイベントならびに死亡率増加に繋がることが明らかとなっており、日本腎臓学会の「エビデンスにもとづくCKD診療ガイドライン2023」では、保存期CKD患者 (腎移植患者を含む)における目標ヘモグロビン値は10g/dL以上13g/dL未満に設定されています。

図12. 慢性透析患者さんの死亡原因の推移
図12. 慢性透析患者さんの死亡原因の推移

2019年11月、新しい腎性貧血治療薬:低酸素誘導因子プロリン水酸化酵素 (hypoxia-inducible factor prolyl hydroxylase:HIF-PH)阻害薬が登場しました。HIF-PH阻害薬は腎臓からのEPO産生を促し、体内に貯蔵されてる鉄の造血への有効利用を促進させることもあって、従来のESAと同等あるいはそれ以上の貧血改善効果が認められています。なによりもこの薬剤は経口投与であることが最大の魅力で、ESAでは月1回の注射のための通院が必要でしたが、その通院が不要となります。その一方で、低酸素誘導因子 (HIF)の安定化は、網膜症増悪、肺高血圧、血栓塞栓症 (ESAでもあり)など造血系以外の臓器や組織に対する影響が懸念されることから、実臨床においてより長期の安全性について検証する必要があります18)。また、ESAにより貧血が改善することで癌患者さんの生命予後が悪くなるといった報告や19-21)、HIF-PH阻害薬によるHIFの安定化が腫瘍の増大に影響する可能性が懸念されているため18)、ESAやHIF-PH阻害使用前には悪性腫瘍のスクリ-ニングが必要となります。

表のようにわが国では現在5種類のHIF-PH阻害薬の使用が可能となっています。各薬剤間で貧血改善効果に大きな差はありませんが、特に食事の影響で吸収が低下する薬剤や、多価陽イオン含有薬剤 (例:カルシウムや鉄などを含有するリン吸着薬やマグネシウム含有下剤など)に吸着されてしまう薬剤、飲み忘れの際に内服時間を考慮する必要のある薬剤など、各薬剤の特徴をよく知った上で内服する必要があります。また、Roxadustatでは中枢性甲状腺機能低下症 (脳から甲状腺刺激ホルモンの分泌が低下するタイプ)が現れることがありますので、定期的な甲状腺機能検査が必要です。

表.わが国で使用可能なHIF-PH阻害薬(添付文書をもとに著者が作成)

Roxadustat Daprodustat Vadadustat Enarodustat Molidustat
用法・用量 週3回、1日1回

ESA未治療 50mg
ESAから切替え 70/100mg

最高用量 ≤ 3.0mg/kg
1日1回

ESA未治療 2/4mg
ESAから切替え 4mg

最高用量 24mg
1日1回

保存期・PD・HD
300mg

最高用量 600mg
食前または就寝前
1日1回投与

保存期・PD 2mg
HD 4mg

最高用量 8mg
1日1回食後

保存期
ESA未治療 25mg
ESAから切替え 25/50mg
HD・PD 75mg
最高用量 200mg
内服を忘れた場合、次の内服
予定時間まで24時以上ある場合は直ちに内服
食事の影響 ほとんど影響なし ほとんど影響なし ほとんど影響なし Cmax及びAUCinf
空腹時投与に比して低下
Cmax及びAUCinf
空腹時投与に比して低下
多価陽イオン含有薬剤(リン吸着薬
など)の影響
前後1時間以上あけて
本剤内服
影響なし 前後2時間以上あけて
本剤内服
投与前1時間
投与後3時間
以上あけて本剤内服
前後1時間以上あけて
本剤内服
薬剤相互作用 HMG-CoA還元酵素阻害薬
(スタチン系)の濃度上昇
CYP2C8阻害薬(クロピトグレル・トリメトプリム)との併用で本剤の血中濃度上昇 HMG-CoA還元酵素阻害薬
(スタチン系)の濃度上昇
フロセミド・メトトレキセートの血中濃度上昇
HIVプロテアーゼ阻害剤、
チロシンキナーゼ阻害剤、
トラニラストで本剤の
血中濃度上昇

文献

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