股関節の病気と治療、 人工股関節手術

膝関節のしくみ

膝関節のしくみ

膝関節は大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)と前方にある膝蓋骨(おさらの骨)で構成されています。人体の中で最も大きな関節で、歩行や階段、たち座りなどの日常生活動作に非常に重要な役割を持っています。

代表的な病気

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)

年齢とともに膝関節の関節軟骨がすり減って、膝の痛みと変形が来る病気です。65才以上の方の50%以上にあるといわれ、女性に多く、高齢化社会を迎えた日本では一種の国民病とも言えます。原因は関節軟骨の老化と考えられますが、同じように暮らしていても、なる人もならない人もあり個人差があります。その中ではっきりと関係のある要因は肥満です。膝関節には歩行をしているだけで体重の約3倍の力がかかるといわれており、変形性関節症の予防や進行を止めるためには、体重をコントロールすることが最も重要です。最初の症状は正座ができない、椅子から立ち上がりの時の痛み、階段での痛みなどがあげられます。その後、関節の動きが悪くなったり、時に関節に水がたまったりして徐々に進行します。通常は膝関節の内側の軟骨が痛むことが多く、すり減ってきますので膝がO脚変形をしてきます。

徐々に歩行距離も短くなっていきます。治療には手術をしない治療(保存療法)と手術療法があります。保存療法には薬物療法(内服、関節注射)・運動療法・装具療法・物理療法などがあり、通常いくつかの組み合わせで行います。比較的初期の変形の軽いときは保存療法で痛みをコントロールできますが、変形が進行し疼痛が強くなってきた場合は、膝が曲げにくくなるだけでなく歩くのも困難となるため手術が必要となります。

変形性膝関節症(へんけいせいひざかんせつしょう)

関節リウマチ

関節リウマチとは一種の自己免疫疾患(免疫異常によって体の中の正常組織を傷害する物質(自己抗体)が産生されることによっておこる病気)で、全身のあらゆる関節が影響を受けます。治療の基本は内科的治療(薬物治療)で、近年新しい薬の開発(生物製剤)に伴って内科的治療成績が向上しています。しかしながら股関節や膝関節など脚の大きな関節に病気が及ぶと、痛みが出て歩行などの日常生活動作が著しく制限されます。このような方は人工股・膝関節の適応がないかご相談ください。痛みを我慢しすぎると骨がどんどん痛んできて、手術がしにくくなることがあり、 手術のタイミングが重要です。当院では免疫・リウマチ科との連携により多くのリウマチの方の人工関節を行っております。

治療法

人工膝関節置換術

これは傷んだ軟骨、骨を人工膝関節の形に合わせて薄く削り、金属、セラミック、ポリエチレンでできた人工関節を自分の骨の上にしっかりと固定する手術です。日本における手術件数は年々増加しており、約10年で約2倍に増えています。

セメント固定

手術治療の中で最も痛みをとる効果が高く、また変形の矯正が行え安定した手術です。(当科ではより正確な手術のためにナビゲーションも併用しています。)人工膝関節の固定には通常、骨セメントという樹脂(物質名:ポリメチルメサクリレート)を使用する場合(セメント固定)とセメントを使用せず固定する場合、その組み合わせ(ハイブリッド固定)がありますが、原則的にはセメント固定を行います。

ハイブリッド固定

セメント固定

ポリメチルメサクリレートは従来歯科材料として使用されていたものを人工関節に応用したもので、人工関節分野では約40年の歴史があり、強固な固定が得られる優れた材料です。人工膝関節の耐久性は、10年間ゆるみがなく、日常生活が過ごせる可能性が95%以上あり、長期に安定した手術法です。

人工膝関節置換術

ただどういう場合にゆるみが起こるかということに関して様々な研究がなされておりますが、一番ゆるみに関係するのは体重であることがわかっています。変形性膝関節症の原因にも肥満が大きく関係しますが、術後も重要です。肥満の方は減量を心がけましょう。減量のためには多少の食事制限と運動が必要です。一番理想的な運動は水中運動で、プールの中を歩くのがおすすめです。人工膝関節置換術に伴う危険性(合併症)はいずれも頻度の低いものです。術後感染(病原菌により膿んでしまう事)で人工関節周囲は血流が乏しいなどの理由で、いったん感染を起こしてしまうと非常に治りにくい性質があります。そのため、当院では感染予防策として、手術室はクリーンルームを使用し、術者も宇宙服のような特別な手術着を着用して術者から細菌が入らないようにしています。また予防的な抗生物質の全身投与などできるだけの事をしており、感染の可能性は1%以下です。万が一感染が起こった場合でも、早く発見して処置を行えば治る場合も多いです。

出血と輸血

人工膝関節置換術は多くの出血を伴う手術ではありませんが、時に術後に多少の出血があります。当院では術後は出た血液を体に戻す術後回収式自己血輸血を行います。これにより輸血はほぼ回避できます。術後に下肢の静脈内に血のかたまり(血栓)ができる深部静脈血栓症が起こることがあります。大きな血栓ができ、それが血液中に流れ出し肺の血管ににつまると、最近話題になっているエコノミークラス症候群(飛行機で長時間座っていて起こる血栓・肺塞栓症)を起こすことがまれにあります。 これの予防には早く動くことが最も重要で、当院では積極的に早期リハビリに取り組んでいます。

リハビリテーション

術後のリハビリは、当院ではリハビリテーション部と協力してしっかりとしたメニューで取り組んでいます。(専任リハビリテーションスタッフあり)術後2日目に歩行練習を開始し、ほとんどの方は術後3週間で一本杖歩行が可能になり退院できます。